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vol.2 【関西版】ニューノーマルの2021年、関西の新築マンション市場と販売側の課題

関西圏の新築マンション発売戸数予測は18,000戸と例年並みに

井口克美の“住まいるup”、第2回目のテーマは【関西版】ニューノーマルの2021年、関西の新築マンション市場と販売側の課題です。まずは現状把握からになります。2020年の新築分譲マンションの発売戸数は、首都圏 27,228戸(▲12.8%)、関西圏15,195戸(▲15.8%と、コロナ禍の影響で前年より大幅に減少。

緊急事態宣言や販売活動を休止していた期間、接客人数を限定した販売体制などが大きく影響したこともあり、2020年の後半は発売戸数を伸ばしてきたものの、2019年よりも少ない状況となりました。

関西圏は首都圏よりも減少率が高いものの、関西圏のデータにはワンルームマンション等の投資用マンションの戸数(約3,000戸)がカウントされているので、実需のマンションとしては、関西圏の方が落ち込みは少ない状況となります。

関西圏の2020年のマンション着工件数は25,773戸と例年並みの供給材料は用意されており、2021年の発売戸数は18,000戸程度と予測されています。(不動産経済研究所)

出典:全国マンション市場動向2020年(年間のまとめ)首都圏マンション市場動向2021年1月度、関西圏マンション市場動向2021年1月度(不動産経済研究所)

都心から近郊エリアへの販売も拡大、住宅環境を重視する傾向も

2020年の新築分譲マンション市場の特徴として、都心から少し離れたエリアの発売戸数が増えてきたことが挙げられます。大阪市中央区、大阪市西区、大坂市浪速区等の都心部は商業ビルやホテル等、競争が激しく用地取得が難しくなっていたこともあり、これらの都心近郊エリアで駅近立地の仕込みが増えたことがカタチになってきました。

2020年は奈良県下や京都府下、兵庫県下、和歌山県下での販売が増え、中でも特急や快速、急行の停車駅に多く見られました。今まで都心に集中していた新築分譲マンション市場が、前述の用地取得による価格高騰により、都心に比べると価格的に手が届きやすいことから近郊エリアの駅チカ物件を選択肢の一つとして検討する消費者が増えたと言えるでしょう。

さらに、このコロナ禍により、在宅やレンタルオフィス等でのテレワークが浸透したことも関係しています。用地取得がここまで厳しくなるまでは「通勤利便性」がマンション選びの重要な指標であり続けました。一等地価格の高騰や、withコロナを機に「通勤利便性」のバリエーションが増えてきたとも言えます。
このように都心の駅チカ物件は価格上昇が続いていることから、特急や快速、急行が停まる「近郊エリアの駅チカ」が新築マンション購入検討段階で選択肢に浮上してきました。住宅環境を重視する傾向がより強まった状況です。

もちろん今後も通勤利便性は重要な指標には違いありませんが、ニューノーマルに対応可能な価値観の多様化とエリアの拡大が、同じタイミングだったことは不動産業界にとっても、消費者にとってもプラス材料と言えます。

価格上昇は2021年も続く傾向、物件販売のハードルを越えるには

プラス材料がある反面、懸念材料は価格上昇が続いていることでしょう。不動産経済研究所によると2020年の分譲単価は、69.1万円/㎡(前年+1.6%)、平均価格4,181万円(前年+1.81%)と上昇傾向が続いています。低金利の住宅ローンや税制優遇、株価の上昇という好条件には恵まれているとはいえ、マンション販売のハードルは高まっています。

2015年に登場したマンションでは、平均坪単価250万円以上は全体の約15%で高額マンションの認識でしたが、2021年に登場するマンションは、平均坪単価250万円以上が50%を超え、相場価格となっていくと考えられます。
住戸面積を抑えながら価格調整はしているものの、4,000万円未満で購入できる住戸はさらに減少すると予測されます。

在庫数は2020年末3,595戸(前年2820戸)と前年より増加し、竣工済の販売中物件も増えてきました。実際、「不動産・住宅サイトSUUMO(スーモ)」の2021年1月の掲載物件数は319物件(昨年同時期268物件)となっており、2020年より50物件ほど多くなっています。

販売する側としては、時代の変化やトレンド等のニーズに合わせた商品企画や、これまでより慎重かつ丁寧な販売活動が求められるでしょう。

マンション購入環境は好調を維持、消費者へのプラス材料が続く2021年

恵まれたマンションの購入環境は2021年も続きそうな気配です。その理由として主に3つの理由が挙げられます。

  1. 住宅ローンの金利は史上最低水準で推移し、当面は急激な金利上昇は想定しにくい
  2. 住宅ローン控除の控除期間を10年から13年延長した特例は2年間延長。さらに、適用条件の最低面積が50㎡以上から40㎡以上へと緩和(但し年収1000万円以下が条件)される。
    ⇒ コンパクトマンションの販売の追い風要因に
  3. 2021年4月からの住宅等取得贈与税の非課税制度の金額が700万円から1000万円へと拡充。床面積条件も50㎡以 上から40㎡以上に緩和される。

加えて新築住宅には最大40万円相当のポイントが付与される「グリーン住宅ポイント制度」の創設など、マンションを購入しやすい環境が続くことは朗報と言えるでしょう。

モデルルーム見学数が減少、消費行動の変化に柔軟に対応することが重要

また、2020年に続き、2021年もコロナ感染予防対策を軸とした販売体制となるでしょう。当面はイベント等での大量集客は難しく、予約制での販売体制が継続されます。不動産を選ぶ際にインターネットで情報収集することは一般的になっていましたが、コロナ禍を機にその流れがさらに加速することとなりました。

例えば、新築分譲マンションの公式Webサイト上にコンセプト動画やバーチャルリアリティによるモデルルーム体験など、自宅にいながら新築マンションや新築戸建の詳細な情報を得られるようになっています。コロナ禍が収束しても、Webセミナーやオンライン接客は有力な販売手法の一つとして定着するでしょう。

withコロナを感じる興味深いデータがあります。
2020年の新築マンション見学数の平均は「2.8件」とのことです。

  • 0~1件=28.5%
  • 2~3件=45.2%
  • 4~5件=18.1%
  • 6~8件=5.2%
  • 9~10件=1.3%
  • 11~20件以上=0.5%
  • 21件以上=0
  • 無回答=1.1%

※調査数 2020年契約者全体 974人
出典:2020年関西圏新築マンション契約者動向調査(株式会社リクルート住まいカンパニー)

0~3件で73.7%、およそ4人に3人の割合となります。平均見学物件数は年々減少していましたが、コロナ禍を機に、インターネット上で気になる物件を絞り込んでから、見学する物件を厳選し、見学時には「気になる点を最終確認する場」とする流れが加速しているようです。

販売する立場としては、自社の物件を見学候補に選んでもらえるように、情報を小出しにするよりも、最新の技術やITツール等を上手に活用して情報を魅力的に伝えることが求められるでしょう。

本記事のまとめ

井口克美の”住まいるup”、vol.2【関西版】ニューノーマルの2021年、関西の新築マンション市場と販売側の課題、最後までお読みいただき、ありがとうございます。あくまでも展望ではありますが、2021年もマンションを購入しやすい環境は続く見込みで、コロナ禍により消費者の住宅に対する意識も高まっていることから、マーケットとしてのマンション購入意欲は高いと考えられます。

マンション発売戸数も例年並みに戻る見通しで、さらに販売エリアの拡大などバリエーションが増える点は不動産業界にとって明るい兆しとなるでしょうが、価格の上昇が課題となりそうです。
また、当面はwithコロナへの対策が求められます。モデルルーム見学数データの減少が示すように、消費行動にも変化が表れています。販売側とすると、オンラインとオフラインを組み合わせた新しい販売手法の確立がポイントとなります。

販売側としてはWebセミナーやオンライン接客などでによる情報提供と顧客育成をしながら、モデルルーム見学などのオフラインでの接客から契約にいたるまでの一連の流れの確立が求められます。
モデルルーム見学数の減少はコロナ禍が影響していることは想像に難くないですが、近年では消費者側も「価格や数字、アクセスや環境などの客観的な情報はオンライン(インターネット)で、営業担当者や不動産デベロッパーの対応、モデルルーム含めた現地の雰囲気などの主観も混じるような情報はオフラインで確認する」との消費行動の変化もあるでしょう。

価格や間取り、アクセス等の共通情報はオンラインで完結できるように情報を発信し、モデルルーム見学時や説明会ではひとり一人に合わせたプラスアルファの接客をする」など、オンラインとオフライン双方の良さを活かしながら、お客様のご要望に応えることが「ご成約の鍵」となるでしょう。

末筆になりますが、新型コロナウイルスの出現により、業界問わず、多大な影響を受けていることと思われます。厳しい状況下において不動産業界はもちろん、様々な業界が明るい兆しに向けてあらゆる対策を練られていることだと思われます。

新型コロナウイルス感染症の一日も早い収束・終息を願うとともに、ひとりでも多くの人が笑顔あふれる「理想の住まい」を手に入れられることを願っています。

井口克美の”住まいるup”

オウンドメディア「crel@b(クリラボ)」の住宅評論家コラム。「関西の不動産業界のことならお任せ」の住宅評論家・井口克美氏が、「新築マンション事情」「戸建て事情」「首都圏と近畿圏の違い」「業界あるある」など、様々な角度から真面目に、時には面白おかしく皆様の「住まい」と「スマイル」のアップをお届けします。一般社団法人住まいる総合研究所代表理事。

井口克美

この記事を書いたのは

井口克美

一般社団法人住まいる総合研究所代表理事。住宅評論家、住宅コンサルタント。1987年、神戸大学卒業後、株式会社リクルート入社。住宅情報(現SUUMO)の広告営業として新築分譲マンション・新築分譲戸建て・仲介・賃貸・等の領域を経験し、SUUMOカウンターでは参画営業を担当。見学したモデルルームや現地は2,000物件以上、担当してきたクライアントは100社を超える。現在は、不動産関連の執筆や住宅購入セミナーなどを中心に全国で活動中。(資格)宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、住宅建築コーディネーター、風水鑑定士